今年の年明け1月4日から、群馬県立近代美術館で六合村在住の彫刻家、
スタン・アンダソンさんの展覧会が開かれています。
スタン・アンダソン「東西南北天と地ーー六合村の一年」
会期>2009.1.4〜3.29 会場>群馬県立近代美術館(開館時間は9:30〜17:00月曜休館)
詳細はHPをご覧下さい>http://www.mmag.gsn.ed.jp/
↓は、恐れながらDMとパンフレットより不肖の抜粋コラージュ。
実際のパンフは新聞紙大、我が家のスキャナーには手に終えずやむを得ずアシカラズ、です。
現物はもっとずっとカッコイイのでぜひ美術館で手に入れて下さい。
なにしろ会場に一歩足を踏み入れた瞬間、うわぁ……と圧倒されました。
あんなふうにワクワクした空間は久しぶり!
以下はパンフレットに寄せられたスタンさんの言葉を転載します。
「群馬県六合村は『ろくごう』ではなく、『くに』と読む。『東西南北天と地は一つの六合(くに)をなす』
という古事記の言葉からきている命名で、昔から世界中にあった古い世界観を表す。
すなわち自分の世界(くに)は自分のまわりの四方、足の下の大地、
頭の上の天によってできている、ということである。
昔の人はその狭い世界をよく歩いて、そこにあるものを知り尽くしていた。
現代人は(私も含めて)もっと広い知識を持っているが、案外、自分のいる場所をそんなによく知らない。
今回、県立美術館で展覧会をする機会を得て、今住んでいる六合村の「東西南北と天と地」と美術館を
何とか結びたいと思った。
山林に囲まれている自分の家を中心にして、与えられた展示室と同じ形、
同じ方向性のある区域を地図の上に設定し、その中でひたすら歩くことから始めた。
美術館の部屋は11×22メートルだが、現地で2×4キロの区域を決めて、
一年十二ヶ月の間に四方を歩き、実際に見た動物12種類を選んで、
森で拾ったもの(毛皮、骨、巣、森の木など)で、作品を作った。
また、自分で歩いた道(林道からけものみちまで)を森の木で美術館の床の上で再現し、
展示空間全部を六合の山林を思い起こす一つの作品にした。
歩く期間は、美術館の改修工事などで、一年間から三年に延びたが、
それでも自分の周りの自然をほんの少し理解し始めたところである。
この経験を展覧会を見に来た方々と分かち合えればと思う。」
(承諾を得て撮影させて頂きました。相変わらずピンボケ写真で申し訳ありません……)
私たちが会場に伺った時、「このあいだ猟友会のおじさんたちが猟が中止になったから、と観に来てくれたんだよ」とニコニコ愉快そうに話していたスタンさん。
そういうの、いいなあ。幸せな芸術の在りようを見たような気がしました。
私たちが行き来している六合村の暮坂芸術村に、スタンさんは日本人の奥様と暮らしていらっしゃいます。
数年前から一緒に窯焚きをしたり、和紙作りをレクチャーしてもらったり、と仲良くさせて頂いておりますが、
なによりシショーとスタンさんは「動物の死骸収集」という希有な共通項がありまして……
(スタンさんは作品の素材として、シショーはもっぱら筆作り&作陶の資料&食←この件については
07.2.15「しっぽ&筆コレクション」、
07.2.17「しっぽをもらって筆を作ろう!」に詳細アリ)
実際、シショーの得意満面「俺、この間フクロウ(の死骸)拾いましたよ♪」なんて類いの自慢話に
「えっ!ホント!どこでですか!?」と目をキラキラ羨ましそうに喰いつく人は、スタンさんくらいです(笑)
(ちなみに二人共、殺生はしません。車に轢かれたりした死骸を山で拾ってくるのです)
そしてその陰で「今さあ、うちの冷蔵庫に野ネズミ(のミイラ)が二匹入ってるんだよ……」
「……うちもね、妙にちっちゃい肉の固まりが大事そうに入ってるけど、
アレ絶対ビーフとかポークじゃないと思う」(後日イタチと判明、さすがに抗議した)
なんていう通常ドン引きされそうな愚痴を私が分かち合えるのは、スタン夫人しかおりません。
Sさん、冷蔵庫になにが入っていようと、お互いくじけず生きていきましょうね(笑)
死骸、といえば(この手の話題苦手な方はゴメンナサイ)……
ネイティブアメリカンの文化に造詣が深いスタンさんから、印象的なお話を伺ったことがありました。
彼らの洗礼を受けると一人に一つ、その人だけの特別な力を与えられるらしいのですが、
その文化に傾倒して自ら洗礼を受けた仲間の一人が
自分は「動物の死骸がどこにあるか分かる能力」を授かった!と、喜んでいたそうです。
動物の死骸の在処がわかるって……?当初はその仲間の喜びようがピンとこなかった、というスタンさん。
一方その頃のスタンさんは、アトリエとして借りた土地でティピー(ネイティブアメリカンのテント)暮らし。
そこに一匹のネズミが居着いてしまい、食料をかじられたりして困っていたのですが、
そのうちネズミは大した量を食べないことが分かり(笑)いつしか共存を認めるように。
ところがある朝。汲み置きしてあった水桶を覗いたら、その同居ネズミが大の字で浮かんでいた。
朝の光の中、透明な水面に静かに浮かぶ溺死したネズミのシルエット。
その時その光景を、なぜかとても美しく感じたそうです。
そこで初めて、仲間が授かって喜んでいた「動物の死骸の在処がわかる能力」の意味がわかったような気がして
それが動物の身体を作品に取り入れるきっかけになった……とのことでした。
(つい横道にそれてしまいましたが)
有名建築家が設計したという近代美術館のモダンな空間に、スタンさんが結んだ六合村のおおらかな山の息吹。
「東西南北天と地」全方向にぐるりと開いている作品群は、その堂々としたリアルで圧倒しながらも、
森の上に広がる晴れ晴れとした空へ導いてくれるようでした。
展覧会は今月29日まで。興味のある方はどうぞお急ぎ下さいね。